平成28・29年度 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 研究活動報告書 −高齢化社会に向けた対応等について− 平成30年(2018年)3月 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 平成30年3月31日 川崎市社会教育委員様 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 部会長山本宏義 副部会長吉田武 平成28・29年度川崎市社会教育委員会議図書館専門部会研究活動報告について 標記図書館専門部会は、川崎市立図書館の円滑な運営を図るために平成28年5月26日に社会教育委員会議の専門部会として設置され、概ね2年間の任期中、川崎市立図書館のあり方について専門的な見地から研究協議を重ね、ここに研究の成果がまとまりましたので報告いたします。 本専門部会では、平成18・19年度に川崎市立図書館協議会によって協議・答申され、平成20年5月に策定された川崎市立図書館の運営にあたっての理論的支柱ともなっている川崎市立図書館の「7つの運営理念と38の活動目 標」を題材に、今日的な視点から見直しを行い、特に高齢化社会に向けた対応等について重点的に調査、協議・研究活動を行い、本報告書を取りまとめました。 今後の社会教育行政及び図書館運営に本報告書が活かされることを期待いたします。 委員構成(五十音順) 青柳英治、田中真理子、コ丸芙佐子、福嶋加代美、山田和秀、山本宏義(部 会長)、吉田武(副部会長)、吉田美幸、渡部康夫、渡邊由紀江 目次 1はじめに 2「7つの運営理念」及び「38の活動目標」の概要3ページ 3研究の経過と論議6ページ 4高齢者サービスについて(まとめ)17ページ 5「7つの運営理念」及び「38の活動目標」のアップデート18ページ 6おわりに20ページ 【参考資料】 資料1川崎市立図書館における高齢者サービスの現状調査21ページ 資料2高津図書館介護予防講座チラシ26ページ 資料3宮前図書館認知症パスファインダー27ページ 【巻末資料】 (1)平成28・29年度審議経過28ページ (2)平成28・29年度川崎市社会教育委員会議図書館専門部会委員名簿29ページ 1はじめに 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会(以下、「図書館専門部会」という。)の前身である「川崎市立図書館協議会」(以下、「図書館協議会」という。)は、図書館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに図書館の行う図書館奉仕につき館長に対して意見を述べる機関として、図書館法に基づいて平成10年に条例で設置され、9期18年にわたって活動を続けてきた。 平成27年の全庁的な附属機関の見直しの中で図書館協議会は廃止されたが、これまで図書館協議会が担ってきた地域住民の意見反映の場としての機能を確保するため、川崎市社会教育委員会議(以下、「社会教育委員会議」という。)の専門部会として平成28年6月に図書館専門部会が設置された。 図書館協議会は、図書館長からの諮問に応じて研究を行い、答申するのが主な活動内容であったが、今回設置された図書館専門部会は各市民館や民家園、科学館などの諸専門部会と同じく、社会教育委員会議の1つの部会である。 従前のような図書館長からの諮問に応じる機関ではなくなったが、その一方で川崎市の社会教育行政全体を考える立場から広い視点で図書館の抱える問題に専門的に取り組み、研究できるようになったという側面もある。 上記のような経過があり、また今期は社会教育委員会議の専門部会という位置づけに変わった最初の期でもあったため、研究も手探りで進められた。 当初、図書館専門部会の研究を進めるにあたっては、社会教育委員会議及び他の専門部会との共同研究や研究テーマの連動・整合等を意識する必要があると考 えた。しかし、その後、社会教育委員会議から、必ずしも本部会や他の専門部会の研究とリンクしていなくても良く、また研究テーマ設定上の制限もないとの説 明があったため、図書館専門部会の発意で自発的かつ自由なテーマで研究を進めていくことになった。 上記の経緯があり、図書館専門部会ならではの視点をもって研究を進めることになったが、社会教育委員会議は年9回の定例会で研究できるのに対し、専門部会は年4回、2年間で8回の会議の中での研究となるため、社会教育委員会議とは違った研究の進め方を考える必要があった。 図書館協議会時代の活動を振り返ってみれば、平成26・27年度任期には研究テーマとして『ICT技術の活用』を取り上げ、その前の任期では『学校図書館との連携』、『新中原図書館の整備』、『川崎としての特色ある図書館の在り方』をテーマにした研究であったが、いずれもその時期のテーマを掘り下げて、現状の分析と提言を行う研究であった。 さらに前に遡れば、図書館の理念を研究した答申が行われた時期もあった。 平成18・19年度任期の図書館協議会が研究活動報告書『川崎市立図書館の運営理念と活動目標について』(平成20年5月)の中で、市立図書館の「7つの運営理念」及び「38の活動目標」を策定・答申したことがその1例として挙げられるが、この答申を受けた市立図書館では、これを重要な活動の柱として位置づけ、 上記の運営理念及び活動目標を毎年の活動の目標に掲げた。この運営理念及び活動目標はさらに新中原図書館の整備コンセプトを考える上でのベースとなるなど、長年にわたって市立図書館運営において重要な役割を果たしてきた。 しかしながら、この運営理念及び活動目標の策定からほぼ10年が経過し、社会情勢やメディアも変貌してきた。この間、新中原図書館が開館し、駅に直結した新中原図書館は毎年120万人を超える来館者で賑わいを見せるようになった。学 校・家庭・地域で取り組まれる「読書のまち・かわさき子ども読書活動推進計画」も平成29年度内に第3次計画の策定が予定され、川崎フロンターレとのコラボによる読書推進活動も行われるなど、市を挙げての様々な読書推進事業が展開されると共に、市立図書館による学校図書館への支援体制も進化してきた。 社会全体の少子高齢化が一層進行し、電子機器のさらなる発展や社会情勢の変動など、市立図書館や学校図書館を取り巻く環境も変貌してきた。また、当時使用されていた諸用語の変化も散見されるようになってきた。 これら10年間の進展や変化を踏まえ、今日的な視点から「7つの運営理念」及び「38の活動目標」の内容を見直す作業から研究を始めてはどうかとの提案が図書館専門部会事務局からなされた。 そこで図書館専門部会では市立図書館の「7つの運営理念」及び「38の活動目標」を全体的に読み返し、時代の趨勢を反映していないと思われる箇所が生じていないかを検証する中で、特に研究すべき点があるようであれば、調査や論議を重点的に行い、研究成果としては「7つの運営理念」を柱に、必要に応じてアップデートしていくことにした。 このアップデート作業と並行して、各委員からの自由な意見交換や論議も重ねられたが、その中で、特に図書館における高齢者サービスをどう考えるかについての問題が2年間にわたる論議の焦点となっていった。 この高齢者サービスは従前の「7つの運営理念」及び「38の活動目標」の時代にはあまり重点的には触れられていなかった項目であり、市立図書館や他の政令指定都市における高齢者サービスの調査・分析も踏まえて活発な論議が複数回にわたって展開され、「7つの運営理念」を補強する提言として今期の研究成果に 結実させることができた。 したがって、本報告書は、市立図書館の「7つの運営理念」及び「38の活動目標」並びに高齢者サービスを中心とした現状調査と研究・提言、「7つの運営理念」及び「38の活動目標」のアップデート、最後に2年間の研究活動のまとめという構成からなっている。 2「7つの運営理念」及び「38の活動目標」の概要 平成18・19年度の川崎市立図書館協議会において策定・答申した当時の「7つの運営理念」は下記のような項目から構成されている。 市立図書館の7つの運営理念 1市民の生涯学習を支える図書館 (1)市民の生涯学習活動を支援する (2)豊富で多様な図書館資料・情報を収集し提供する (3)市民の学習・調査活動を支えるレファレンス・サービス(調査・相談業務)を提供する (4)IT(情報通信技術)を活用した非来館型サービスを可能な限り充実させる (5)多種多様な利用者に対応した図書館サービスの提供と充実 (6)落ち着いて読書や調べもの・情報の収集ができる快適なスペース環境を提供する (7)各種のデータベースやネットワーク情報資源へのアクセスを提供する 2市民の仕事や生活に役立つ図書館 職業、健康・医療、福祉、法律、子育て等、身近に必要と考えられる資料・情報を提供する 3川崎としての特色ある図書館 (1)川崎市に関連する地域・郷土資料、行政資料(川崎資料)の専門図書館 (2)川崎関係の資料の網羅的収集や資料の自館作成にも積極的に取り組む (3)市所管の専門資料情報機関と連携し、資料データの共有を図る (4)大学図書館との連携、専門書・高価な資料などの拡充、民間機関との次代の協力関係構築 4学校図書館との協働を推進する図書館 5市民に信頼され市民が支える図書館 ・市民と共に育てる図書館という視点で市民とそのグループや団体と協働しつつ、市民生活にとってなくてはならない不可欠の存在として市立図書館を充実強化 6持続的で安定した効果的・効率的な運営をめざす図書館 7図書館職員の専門的能力と資質の向上をめざす図書館 川崎市立図書館の38の活動目標 当時の図書館協議会では、前頁の運営理念に基づいて、具体的な活動目標を下記のとおり定めている。 これは運営理念をより具体化し、川崎市における図書館活動の現実的な到達点を明らかにするためのものである。当時の市立図書館で既に着手されている活動に加えて、これからあるべき図書館サービスも取り上げ、項目を絞って提示している。 1市民の生涯学習を支える図書館 (1)資料・情報の充実 (2)資料・情報と利用者を結びつける活動の充実 (3)資料保存 (4)専門職員の充実 (5)利用者の個人情報・読書情報の保護・自由な読書活動の保障 (6)子ども・ヤングアダルトサービスの充実 (7)施設・設備の充実 2市民の仕事や生活に役立つ図書館 (1)関連資料・情報・レファレンス・サービスの充実 (2)アウトリーチサービス (3)コミュニティ形成への貢献 (4)各種図書館及び関連機関との連携・協力の推進 3川崎としての特色ある図書館 (1)川崎市に関する地域・郷土資料、行政資料(川崎資料)の専門的図書館 (2)市所管の専門的資料・情報をもつ機関と連携し資料・情報の共有を図る (3)行政各部局の業務と議員活動への資料・情報援助 (4)市内大学図書館との連携 (5)市内企業との連携 4学校図書館との協働を推進する図書館 (1)児童・生徒の読書についての協働の推進 (2)児童・生徒の授業についての支援 (3)コンピュータシステムでの協働の推進 (4)図書流通システムでの協働の推進 (5)施設活用での連携 5 5市民に信頼され市民が支える図書館 (1)各種市民グループ・団体との協働 (2)図書館協議会の推進・活用 (3)ボランティアの養成と活用 (4)市内の読書団体・読書グループ支援 (5)市民の集会活動・文化活動・読書活動・学習活動の支援 (6)市民、識者に広く聴く活動の充実 (7)市民や各種団体・行政諸機関に広く知らせる活動の充実 (8)利用者の拡大 6持続的で安定した効果的・効率的な運営をめざす図書館 (1)川崎市立図書館システムの構築 (2)図書館サービスの計画的実施・評価 (3)IT(情報通信技術)を最大限に活用した運営 (4)図書リサイクル(読書循環) (5)危機管理の徹底 7図書館職員の専門的能力と資質の向上をめざす図書館 (1)専門性をもった職員の採用・配置 (2)ジョブキャリアの確立 (3)外部アドバイザーの活用 (4)図書館長の役割の明確化 6 3研究の経過と論議 (1)平成28年度第1回定例会(6月29日)の論議から ※任期の初回定例会では、専門部会の役割や図書館協議会時代の活動、市立図書館事業等の説明が事務局から行われた後、各々の委員から興味のあるテーマや研究の進め方などを自由に出し合うフリートークが行われた。 ・学校図書館の有効活用においては、地域とのつながりを増やす努力を学校はやってきているが、もっと図書館が身近なものとして感じてもらえるように考えていきたい。 ・地域に開かれる学校図書館ということも必要。 ・家庭と地域そして公共図書館、学校教育・学校図書館というのが繋がっていくようなあり方を模索し、一般の人に見えるような図書館活動を行い、図書館のネットワークを作っていかないといけない。 ・周辺に本屋もなく、本に触れる機会が少なく、ネットやマスコミからも正しい情報が得られにくい中で、本当に正しいものが何かを学ぶ場所として、図書館はもっと機能してほしい。 ・図書館にもっと高齢者を呼び込み関わらせる活動が必要ではないか。 ・高齢者に向けての活動が必要なのではないか。 ・高齢者の対策はまだこれからの課題なのではないか、他都市でどういうことが行われているのか。 ・それぞれの図書館で蔵書などに特色があっていいのではないか。 ・図書館協議会という枠が外れたことにより、もっと広い視野で、川崎の図書館という視点で考えていけると良い。 【定例会後のアンケートで出た意見】 ・社会教育委員会議では青少年の居場所としての図書館が論じられているが、中高年、特に高齢者の居場所としての図書館はあまり語られていない。社会の高齢化がますます進む現状にあって、図書館にできることはもっとあるのでは。その点で地域の身近な場所にある学校図書館の地域開放は有効である。 (2)平成28年度第2回定例会(9月16日)の論議から ※前回に引き続き、研究の進め方や各々の委員が興味をもつテーマなどを自由に出し合うフリートークが行われた。 ・区にたった一つしかない図書館に住民が本を借りに行く、図書館で調べたい、といった時に、バスで1時間近くかけて行かなくてはいけないという状況がある。 こども文化センターにある本を活用しない手はない。 ・図書館員はどういう図書館を理想像としているのか。単なる居場所ではなく学びの場であることが伝わる図書館づくりが必要。 ・学校図書館を地域に開くということは大切。 ・学校図書館は高齢者の身近にあるので開放できれば高齢者の利用者も増えるだろうし、認知症予防にも読書は効果的。人口減少社会の到来を考えると新しく施設を作るより既存施設を使う方がベター。 ・学校図書館には子どものための本が選ばれて置いてあるので、地域開放で高齢者が読みたい本を置いてあるのかどうか。むしろ、こども文化センターなどで予約や受け取りが出来るような形にして、拠点の一つとして活用する方策もある。 ・地域の文庫には地域の高齢者が子どもと一緒に触れ合う中で元気をもらう実態もある。世代間の交流もある。そういう場は学校ではできない。今あるものをどう活用するか。 ・持ち寄った本を置くのでもよい。単なる居場所づくりでは、結局、喋って終わりで何も残らない。まとめ役のリーダーが必要。 ・既存の施設をいかに有効に利用していくかは一つの研究のテーマにできると思う。居場所として考えるのか、読書をする場や知識を習得する場として考えるのかというのではかなり違うので整理しながら論議を進めたい。 ・平成18・19年に策定された運営理念と活動目標、これを見直すことは必要と思うが、今ある施設をいかに活用していくか、高齢者のための活動とか、高齢者の居場所としての図書館とか、高齢者の問題について考えたい。 ・高齢者施設が使えるなら高齢者が持つスキルが使えるのではないか。本の再利用と高齢者のスキルの活用ができないか。 ・福祉の問題と考えるか、図書館の専門部会として図書館利用に関わる高齢者サービスの問題と考えるのかによって、方向性が変わってくるのではないか。 ・高齢者はある意味で図書館利用に不自由をきたしており、障害者と共通する課題がある。そういう人たちをどう考えるか。 ・アウトリーチサービスとか、高齢者サービス、この辺りが今回の研究テーマになり得る。特に高齢者の方を対象とするなら、遠いからとか、健康上の理由とか、来館できない理由はいろいろ考えられる。来館できれば図書館の中でどのようなサービスをしていくか、来館できない方には物流ネットワークや移動図書館車などアウトリーチという観点からのサービス提供が考えられる。 ・高齢者の方が望むようなサービスは読書だけではない。高齢者のニーズは多様だと思う。 ・検討するテーマとして、1つは今ある図書館や学校、こども文化センターや文庫などをどう活用していくのかということ。2つめが市内や他都市の取り組み状況の調査を踏まえた上で、高齢者が求めている図書館サービスをどのように考えていくか、ということになるのではないか。 ・平成18・19年度に策定された運営理念などは出来てから10年経っており、このままでいいのかどうか。見直し作業も行っていきたい。 ・10年前の川崎市立図書館が目指していた運営理念と活動目標が時代に合わなくなってきているのではないかという視点からアップデートし、特に高齢者サービス部分の内容が足りていないということであればそこに特化して論議したい。 ※運営理念と活動目標は皆で一度見直しを行うことにし、出てきたテーマについて何回か集中的に論議することになった。 (3)平成28年度第3回定例会(12月16日)の論議から ※「7つの運営理念と38の活動目標」の前半部について事務局から説明し、1つ1つの項目について意見交換が行われた。運営理念と活動目標ができてから10年経ったこともあり、時代に合わせた見直しをまず行い、その中から出てきた課題を中心に論議をしていくことになった。 ・10年前と一番大きく変わってきたのは中原図書館の移転・開館。10年前にも「今後はIT化(ICT化)を進める、機械化・省力化によって効率化を進める」とされていたが、そこは10年の間にできたと思う。その他のところも少しずつは進めてきたが、職員の専門性の向上など、進めるのが難しいところもあった。 ・高齢者に関わる部分としては病院や高齢者施設への貸出、在宅の障害者への宅配サービスが考えられるが、市立図書館では在宅の障害者への宅配サービスは行っているが、病院や高齢者施設へのサービスは現在行っていない。 ・図書館はこれまで高齢者サービスを障害者サービスと一緒に考えているところがあって、今まで障害者用として大活字本を各館で所蔵してきた。しかし大活字本が読みやすいという方は障害者だけでなく高齢者ほか幅広い年齢層に存在しており、ニーズの境目がなくなってきている印象を図書館では持っている。 ・障害者用のパソコンや「DAISY」(注1)とか、パソコンを使った読み取り支援など、障害者支援に用いる物に対する提供の方向性が必要になってくるだろう。 ・学校への団体貸出やセット貸出もあり、社会科の調べ学習でも図書館の資料を使う。この10年間で学校図書館の利用はかなり増えているが、やはり物流が大きな問題である。 ・医学関係の図書はもう少し充実させたほうが良いのではないか。それほど専門的な図書でなくても充実させたほうが良い。 ・宮前など一部の市立図書館には認知症に関する本をまとめて置いてあるコーナーもある。 ・居場所が少ない。商店街の空いたお店とか、工夫すれば結構そういう場所、市民がほっとできる場所ができる。 ・障害者差別解消法が平成28年4月に施行になった。障害者と一口に言ってもいろいろな障害のタイプがある。図書館側がどれだけ個別のニーズを把握できるか、障害者と図書館がどれだけコミュニケーションをとれるか、即ち障害者がどれだけ図書館に働きかけをして、図書館もどれだけそれに応えていくかが大事である。 ・障害者が自分の力で来られるかどうかというのが第一で、次にその方々に個別の支援がどれだけできるかという課題になる。合理的配慮は誰もが活用しやすい環境づくりの課題なので、直ちに解決できなくても取り組むべき課題である。 ・場所の管理の問題というのは結構難しい。すべての人が快適に使えるか、そもそも快適なスペースの提供というのは図書館がやることなのか。 ・健康、子育て、女性の就労問題等を担当する市役所のセクションと一緒になって図書館を会場にセミナーを開催したり、図書館で持っている資料を活用したり、講師は市役所から来てもらって一緒にやるような視点も必要である。 ・生涯学習の観点から、日々生活していくことや、もっとおいしい料理の作り方を考えることなど、それらすべての行為が学びに通じると考えることを促進する取組が欲しい。 ・各種データベースやネットワーク情報資源へのアクセスを提供するにあたり、情報機器の使い方がわからない人はとても多いと思う。 ・専門的なことを知りたい一部の人のニーズに図書館はどのように対応するか。すべてには対応できないし、予算にも限りがある。市民のニーズや図書館の役割をもう一回考えたい。 ・いろいろな方がいるし、必要とするものも個人によって違う。分からないことを図書館で聞きたくても、どこでどう尋ねれば教えてもらえるのかを知らなければ諦めてしまうかもしれない。図書館ではこういう事をこのようにやっていますということをまず周知して、広報を充実させれば解決する問題もあると思う。 注1)デイジー:「DigitalAccessibleInformationSYstem、活字による読書が困難な人々のための国際的なデジタル録音資料制作システム」(出典:『図書館情報学用語辞典第4版』(日本図 書館情報学会用語辞典編集委員会編、丸善出版、2013年) (4)平成28年度第4回定例会(3月8日)の論議から ※前回までの論議の整理と前回の残りである7つの柱の後半部分を事務局から説明した後、7つの柱をテーマにした意見交換が行われた。 ・学校図書館については少しずつ人の配置が進み、学校図書館に人がいることによって、図書館同士で連携を取りながら蔵書を相互に活用しあうネットワーク構築が可能になった。これからも学校図書館と公共図書館とが上手く協働していく方向を目指してほしい。 ・まずは学校図書館としてしっかり自立していくような支援を市立図書館として行う必要がある。 ・司書教諭だけでなく、学校司書が増えると市立図書館との連携で中核となる人ができると思う。 ・市立図書館から学校図書館に向かう物流についても改善されれば良いと思う。 ・学校図書館で市立図書館の本の貸出返却ができると図書館まで行かなくても済み、便利である。 ・「市民に信頼され市民が支える図書館」について、10年前と比べて市民活動が活性化しているのか、図書館からの支援が厚くなっているのかは測りにくい。 ・図書館職員が場を設定してボランティア相互のネットワークを作ってくれるのは良いが、忙しいので自分たちでやってくれないかと職員に言われることがある。 ・協働という立場で図書館と市民のグループとが協力し合って何かをやる試みがどのくらいなされているのか。 ・市立図書館が育てた図書ボランティア等がある程度成熟して自立している団体も多い。そういう変遷を経ながら成長してきて、どちらかというと図書館側が自立した団体を応援し、支えるようなニュアンスが強くなっているのではないか。 ・川崎市立図書館と学校図書館がリンクした図書館総合システムが稼働を開始し、市立図書館の蔵書すべてにICタグを貼って、自動貸出機を全館で導入しており、「IT(情報通信技術)を最大限に活用した運営」という柱については10年の間にかなり進めることができたと考えている。 ・自分の読んだ本について意見交換をしたいという子どももいる。図書館員がそういった子どもたちの心を育ててくれるような役割も持ってくれたら良い。将来的にその子たちは、きっと図書館を利用する人になると思う。 ・学校と図書館ということではなくて、子ども達に図書館がどういうケアをできるか、サポートできるかという話である。 ・高齢者もハンデを持っているという側面がある。高齢者向けの蔵書の現状や高齢者の交流の場とか、居場所について論議したい。 ・生涯学習にとっての高齢者の視点から、障害者、健康・医療、居場所、交流の場の提供等のそれぞれの現状はどうか、生涯学習にとっての高齢者対応はどうなっているのかということから健康・医療とか居場所といった話にもつながっていくのではないか。 ・図書館スタッフの専門性という問題は凄く大事で、専門的なことを詳しく知っているだけではなくて、市民が持っているニーズが何かを掴める感覚を持っていないといけない。 ・高齢者という切り口で、いろんな角度から研究したい。 (5)平成29年度第1回定例会(6月2日)の論議から ※前回からの論議を受け、高齢者へのサービスを中心に論議がなされた。 論議に先だち、市立図書館における高齢者サービスの状況についての調査(21ページ参照)を行った結果報告を事務局から行った。(以下、調査結果要約) 「これまで川崎市では、高齢者サービスを障害者サービスと似たようなカテゴリーとして捉えてきた部分があって、明確な定義は全国的にも確立していないと思われる。まず設備面では、どこの館でも大活字本、老眼鏡や拡大読書器などの補助用具を備えている。 各館が高齢者への対応で同じように苦慮しているのは職員が説明をしてもなかなか理解してもらえない、意思疎通に関する問題。また大きな声を出される方、体調不良の方、徘徊する方、認知症と思われる方への対応の問題。今後実施したいと考えている、または現在より充実させていく必要があると考えている取組としては、地域包括支援センターや医療機関の広報担当者との連携、認知症の方への接し方や配慮の仕方などの職員のスキル向上などが挙げられる。 何もかも図書館で行うことはできないので、図書館として本来行うべきサービスと他機関と連携して行うサービスを明確に区別するとか、おひとりおひとりへの対応が異なるのでマンパワーの確保が必要である。」 ※関係局と連携した高津・宮前図書館における認知症関連のコーナーや講座などの取組(巻末:参考資料2、3参照)等についての説明も行われ、以下のとおり委員と意見の交換があった。 ・高津と宮前が認知症関連の取組を始めたきっかけは何か。区民からのリクエストによるのか、区によって特色があるということか? ・宮前図書館は30数年前から住み始めた世代の方が高齢になりつつあり、カウンターでどう接すればよいか迷うケースもしばしば見られるようになったという背景があり、区役所や市民館とも隣接していることから連携事業が始まった。 ・高津図書館ではずっと図書館で過ごされるお年寄りが多いことに気が付いたので、利用者を増やそうという発想で区役所に呼び掛けて講座を実現した。 ・高津や宮前は地域密着型、川崎や中原は交通網でつながる図書館というイメージ。 ・区によって住民の意識や特性が異なっており、高齢者に対する図書館サービスも川崎・幸と、高津・宮前・多摩とではどうしても違ってくると思う。 ・お年寄りは耳が良く聞こえないから大声になる。そういう特性を知って頂きたい。 ・図書館を利用される高齢者に対するケアだけでなく、ケアをされている家族の方のニーズも考慮すべき。 ・ユニバーサル化への対応は高齢者でなくても必要なことと思う。 ・高齢者があまり本を借りない地域では写真や絵の展示などの方が効果的だと思う。 ・歩いて行ける場所の確保がこれからは大きな問題である。大活字本や写真を、それも歩いて行ける場所に置いてはどうか。 ・居場所には高齢者だけを集めるのではなくて、子供たちと接することで若返るので、世代を超えた交流の場を作っていくようにすれば良い。 ・高齢者が集まっても本の話はまず出ない。居場所づくりと言っても、図書館に集まってお喋りするわけにもいかない。 ・仲間づくり・居場所づくりは図書館の機能として必要なものなのか、疑問に思う。 ・宮前の「認知症予防講座思い出し俳句の会」は俳句を通じて自分の記憶を思い出したりする取組で、新しいタイプの高齢者サービスともいえる。 ・高齢者ということではなくて、図書館に来る人にどこまで優しさを提供できるかという視点が大事だと思う。お年寄りは耳が聞こえないので大きな声を出すことを職員が理解していればそこでコミュニケーションが成立する。 ・大きな声で話す人の特性を職員が理解していても、他の利用者から苦情が来ることがある。図書館だけではなく社会全体で理解して許容していただかないと難しいところがある。 ・新たに高齢者だけを呼び込んで何かをやるのではなく、今図書館を普通に使ってらっしゃる方もやがて高齢者になるわけで、高齢になってもどうすれば普通に使い続けられるかを考えて行く必要がある。 ・高齢者を取り巻く問題は図書館だけの問題ではない。市役所のしかるべきセクションと連携してどういうことをやっていけるかを考える必要がある。 ・ここで論議されてきたのは主に社会的弱者としての高齢者に対するサービスであるが、弱者は高齢者に限らない。特殊なことではなくて一般的なこととして、弱者全体に対するサービス向上というものを考えていけば良いと思う。 ・元気な方・そうではない方など、高齢者にも色々いらっしゃるので、一括りに高齢者サービスを考えるのは難しい。特に障害者サービスとの兼ね合いがある。健康・医療の情報を提供するサービス、図書館に来たくても来られない方へのアウトリーチサービス、そういう図書館のサービスを色々組み合わせ、高齢者サービスを広く捉えて、高齢者の方たちにうまくマッチするように考えることも必要ではないか。 ・高津図書館や宮前図書館での色々な取組やサービスの情報、ノウハウを他館もシェアして参考にしてはどうか。 ・デジタルデバイド(情報格差)が高齢者の生活の格差につながっていくと聞いているのでもう少し論議できれば。 ・高齢者の方は声が大きいが、筆談するツールもある。図書館の世界に限らず、高齢者に関するセミナーもたくさんある。専門家からレクチャーを受けるという手段もある。図書館だけが高齢者サービスをしているわけではないので、川崎市の他の部署に確認して、もし一緒に参加させてもらえるものがあれば働きかけることも考えられる。高齢者サービスについてはあまり図書館という枠だけで考えない方がよい。 ・図書館は地域包括支援センターや健康福祉局などの他部局との情報交換をもっと強化すべきでは。図書館職員の研修の中で、他部局と連携して職員のスキルを充実させる研修などやっていくのも大事ではないか。 ・7番目の柱「図書館職員の専門的能力と資質の向上をめざす図書館」について、利用者満足度調査やアンケート質問調査があれば、利用者が図書館に期待していることを探ることもできると思う。 ・図書館が持っている統計データをうまく組み合わせて分析することによって、登録者の年代別貸出傾向などを知ることができるのではないか。 ※次回、政令指定都市への高齢者サービス調査結果と、川崎市立図書館の統計分析結果を報告し、それに基づき論議することになった。 (6)平成29年度第2回定例会(9月27日)の論議から ※政令指定都市立図書館における高齢者サービス状況の説明及び市立図書館の利用者状況の説明が事務局から行われた後、自由な意見交換が行われた。 (以下、事務局説明概要) 政令指定都市の図書館に対し、日常的な高齢者サービス、高齢者を対象とした具体的な取組、高齢者サービスの策定や対応マニュアルの整備、関係部署との連携、それ以外に特徴のある事業や計画の予定などについて調査を行った。やはり各都市とも高齢者サービスの定義が明確ではなく、本市と同じく、ほぼ障害者サービスと同じような内容で捉えられていた。 次に川崎市全体の人口構成と将来推計人口、市立図書館の各地区館ごとの利用状況(年代別の登録者分布、分野別の個人貸出冊数、ベストリーダー)を分析 し、各館の利用特性と特に65歳以上の利用状況、各館別の利用傾向や特徴などについて事務局から説明が行われた。 (以下質疑応答と自由討議) ・小中学生でも意外に歴史、地理、社会科学、自然科学、美術、家事という分野も借りられており学習に活かして借りられているようで驚いた。 ・小学校のベストリーダーは『かいけつゾロリ』ばかりであるが、他も見ていると結構良い本もあった。子どもたちがしっかりと選んでいるとも感じた。 ※以下、アップデート案について検討を行った。 ・現状を考えるとあまりにも図書館の数が少ない。バスで30分以上行かないと行けないという状況の下では行くにも大変である。そういう中でのサービスの在り方、地域のニーズということも考慮しないといけないのではないか。基本的には川崎市立図書館の運営理念と活動目標はとても素晴らしいので、それをアップデートしていくことには賛成である。 ・元気なシニアに対しては、シニア同士が協力しながら活動していく、そのサポートを図書館がしていくことでシニアの活力が生まれるのかなと思った。 ・高齢者施設でのセット本の貸出や移動図書館の施設への巡回、パネルや写真等の展示など、他の政令指定都市の取組で川崎市でも活用できそうなものに取り組んでみるのは面白いし、ニーズも開拓できるのではないか。 ・本がある場所を近くに作ること、直接本を手に取ってみる場所をどう作るかということが大事だと思う。 ・ベストリーダーリストは本当に興味深い資料で、地域性が出ると感じた。 ・図書館の絶対数が少ないが、特に政令指定都市では区に1館みたいな配置が多いので、どこの政令市も同様の問題を抱えている。中学生などであれば学校図書室の充実と公共図書館との連携で補っていくのかなと思う。 ・高齢者サービスの策定や高齢者対応マニュアルの整備は政令指定都市のどこもやっていないのでぜひやってほしい。 ・7館を全部同じように統一しないで、各館の実情に合わせてその特色のあるコーナーを設置することがあっていいのではないか。 ・図書館の中で行われている様々なサービスの中から、こと高齢者に関わるものを認識しておいて、必要に応じて対応を求められたらそれができるというようなことを明らかにするだけでもいいのではないか。 ・川崎ではどんな高齢者サービスをやっているかと聞かれた時に、マニュアルを作ってこういうふうに整備をしてきていると掲げることは非常に大事ではないか。一般的な定義ではなくても、川崎なりの定義をすれば良いのだと思う。 ・高齢者が利用しやすいということは、一般の人にも利用しやすいことでもある。ユニバーサル化の視点が大事。 (7)平成29年度第3回定例会(12月8日)の論議から ※これまでの研究討議の総括が行われた。 ・図書館の中で行われている様々なサービスの中で、これが高齢者に関わるサービスであると認識できるようにしておいて、求められたらこれができるということを明らかにしておくだけでも良いのではないか。高齢者の利用対応マニュアルを整備しているということを対外的に説明できるようにすれば良いのではないか。 ・高齢者の問題はとりもなおさず生涯を通した読書生活の問題であり、一切本を読まない人が高齢になったからといって急に図書館に行くようにはならない。普段から図書館を使うような生活をどう定着させるか。生涯にわたる幅広いサービスをどう提供するかがポイントである。 ・印刷物の文字を大きくするとか、読みやすい工夫があると読んでもらえる。 ・スペースの問題はあるが他都市では図書館で体操教室を開催しており、普段図書館には来ないような人が来館して、あとで健康に関する本を図書館で求めたりしている例がある。 ・図書館に一度も足を踏みいれたことの方は多いと思うが、本だけではなくCDがあるとか、来れば図書館が素晴らしいところなのが分かるので、啓蒙活動も必要。 ・研究内容を検討していくと、「ユニバーサルデザイン」というか、誰もが使えるという視点で進めていくのが良いのではないか。高齢者が障害者がとか、特にサービスの受益者を区別する必要はないので、誰もが使えるという視点で川崎らしいことを整備していけばよいと思う。 ・足りないところを補う高齢者サービスという発想ではなくて、多少時間的な余裕ができた高齢者が今までの経験を活かせる場を用意する、これは高齢者サービスというよりも、高齢化社会に対応した図書館のあり方という中で必要なことかなと思う。 ・社会参加したいけれど適当な機会が見つからないという人はかなりいると思う。 ・外国語の本を読むお手伝いをする方を募集すればやりたい方は多いのではないか。 ・普段図書館を利用されている方がやがて高齢になっても図書館から離れていかないようにするサービスも必要だと思う。そのためには、来館し辛い人でも気軽に借りて返すことができるサービスを。 ・本を読むのは好きだけれども目が悪くなってきて小さい字は読めないという人に対して、録音を聞くことができるサービスを提供することでサービスの範囲を広げていくとか、今ある中で検討を加えれば提供できるものはあると思う。それに加えていろんな組み合わせで人を呼びこむ工夫を。 ・今まで何気なく来館して、借りたり返したりができていた方でも、足が不自由になると足が遠のいてしまうので、そのあたりの便宜を図るとか、文字が読み辛いとか、音が聴き取り辛いといった理由で図書館から離れていかないようにする視点が大事だと思う。 ・障害を持った方にとっては文字を音声化するだけでも助かるが、高齢者や子どもたち、あるいは、一般の人たちでも音を聞きながら本の内容を理解するのも読書としてはありだと思う。 ・公共図書館がいろいろ配慮していることを知らない方もいるので、それを知らせることが重要ではないか。 ・社会全体で考えないといけないことがまだ沢山あると思う。高齢化社会を前提とする中で、高齢者サービスをどうしていけば良いか。 ・いわゆる高齢であるがゆえに不便をきたしている問題は障害者といわれる人たちと共通する問題と捉えて論議してきたが、これからの高齢者サービスのあり方としては、図書館の利用者として使い続けていただくためのサービスとか、高齢者の特性や行動を職員が理解して接するといったあたりを今まで以上に力を入れていくことが必要だろうと思う。 ・高齢化社会の中で高齢者がいろんなところで活躍できる、そういう場の1つとして図書館も高齢者に何が提供できるか。居場所とか交流の場にとどまらず、今までの経験や能力を活かしていけるような機会、場所を作っていくようなことも重要だと思う。 ・居場所、場所を作るということについては、図書館以外の他の関係部署との調整や検討、その働きかけを関係部局に対して行うとか、結局そういうことのようなので、そこをもう少し細かく丁寧に表現した方がよいと思った。 ・アップデートについて、「図書館協議会の推進・活用」の部分のように名称が変わっている部分は訂正が必要である。 ・各図書館の個性、特色が必要。3「川崎としての特色ある図書館」について、この分野の本だけはこの図書館が持っているというような形での方針が必要かなと思う。(ある程度は各区で収集の分野を分担しているとの事務局説明あり) ・「専門的図書館」と「専門図書館」という文言は特に意味がなければどちらかに整理してはどうか。 ・「ヤングアダルト」という用語は現状を表現している気がするので変えなくても良いのでは。(川崎市では中原図書館を再整備するときにヤングアダルトではなくティーンズコーナーとし、各館でもティーンズコーナーという名称に変えてきた経緯がある。今回は市立図書館で使っている用語に改めたいという事務局説明あり。また、リサイクルというと一回壊して作り直す、再生紙のようなイメージがあるが、図書館の場合は他の方に有効に使っていただく読書の循環なので、リユースという用語に改めたいという事務局説明あり) ※用語を変更しても、以前の文章を書き直すのではなく読み換えるという方針が確認された。 ・「ジョブキャリアの確立」とあるが現在ならキャリアパスという用語に変えても良いのではないか。 ・「アウトリーチサービス」という用語だけでは具体的にどういうサービスなのかが分かり辛い。もう少し説明を加えた方が良い。 ・「アウトリーチサービス」は図書館側から出向いて行う各種のサービスということではあるが、「具体例(アウトリーチサービス)」とか、一般の方が読んで分かるように変えてはどうか。 ・10年前に策定された内容に比べて、「読書のまち・かわさき」事業との連携とか、学校環境だけでも随分整えられてきた例があるので、前文や経過などの項目で川崎の事業との兼ね合いなども触れておけば、活動の様子や広がりが分かりやすいのではないか。 ・学校図書館に人がいることによって、いつも誰かがいてフォローできる体制や、温もりのある図書館を作るというのはすごく大事であると思う。 ・高齢化社会に対応した図書館サービスの充実という文言は「推進」で良いのではないか。 ・そのほか、県立川崎図書館や公文書館との連携等についても質疑応答があった。 【「38の活動目標」アップデートについて出された意見のまとめ】 1(6)「ヤングアダルト」については「ティーンズ」に読み換えていく。 2(2)「アウトリーチ」については一般の方が分かりやすいように工夫する。 (3)の下に「高齢化社会に対応したサービス」という項目を入れ、以下の番号を繰り下げる。 5(2)の「図書館協議会」は「図書館専門部会」に名称を変更する。 6(4)は「リサイクル」は「リユース」という文言に変更する。 7(2)の「ジョブキャリア」は「キャリアパス」という文言に変更する。 上記のほか、運営理念3(1)の「専門図書館」と活動目標3(1)の「専門的図書館」という文言を統一するか、用語を使い分ける。 4高齢者サービスについて(まとめ) 前章のように専門部会の約2か年にわたる研究討議が行われた結果、市立図書館における高齢者サービスについて下記のように意見が集約された。 (1)これまでの図書館における高齢者サービス 今までの図書館では、高齢者に対するサービスとしては、「文字が読みにくくなった」「来館しづらい」「身体的に辛い」といった、心身の老化に伴う図書館利用へのハンディキャップへの対応が中心であり、障害者サービスと同じカテゴリー(心身の老化に伴う図書館利用へのハンディキャップへの対応や配慮=大活字本、段差や手すりなどの設備面など)で捉える傾向があることが分かった。 (2)高齢者サービスの在り方を考える上でのポイント ア高齢者と言っても、必ずしも社会的弱者ではなく、アクティブなシニアも多く存在する。元気な方、そうでない方、体調や事情はおひとりおひとり異なっており、この方々を一括りに語ることはできない。 イ図書館の近くにお住まいの方・そうでない方、健康の度合い、図書館に求めるニーズなどもおひとりおひとり異なる。 ウ高齢者や障害者などと殊更に分けて考えるのではなく、誰もが使えるという「ユニバーサルデザイン」的な視点で考えて行くのがよい。 エこれまで図書館を使ってきた方々が心身の老化が進んでも、図書館から離れていかず、ご利用いただき続けるための工夫を考えて行く必要がある。 オ高齢者特有の特性や行動、不自由を感じていらっしゃる点を職員が理解し、適切な対応方法を学び、敬意をもって接するようにしていく必要がある。 カ高齢者サービスのニーズを考えるうえで、区の特性や地域性などを考慮してはどうか。 キ高齢者への図書館対応マニュアルや方針などに明示しておいて、川崎市の高齢者に係るサービスであることを図書館員が認識できるようにしておくことが大切である。 ク本を読まない人が高齢になったからといって急に図書館に行くようにはならない。高齢者の問題は生涯を通した読書生活の問題であり、生涯にわたる幅広いサービスをどう提供するかがポイントである。 ケ図書館では来れば楽しい場所、便利な場所であることを周知していくのが大事。 コ図書館で開催される講座等が出会いの機会や交流の場ともなりうる。 サ高齢になって不便になったところ、足りないところを補うサービス、単なる居場所の提供ではなくて、今までの経験や能力を生かす場・社会参加の場を作っていくといった高齢化社会に対応した図書館のあり方を考えて行く必要がある。 (3)これからの活動に向けての提案 ア現在の川崎市立図書館が行っている「高齢者サービス」について、前項の論議を参照し、従来の概念を拡大しながら整理して、高齢化社会で図書館が目指すサービスの指針を定めマニュアルを整備する。 イ高齢者サービスのことを図書館だけで対応を考えたり実施したりするのではなく、市民館や、地域包括支援センターほか、各分野を所管する他部局(保健・医療・福祉関連等の諸機関)と連携を行う必要がある。そのために、他部局、関係部署との情報共有や働きかけを意識して進める。 ウ関係局等と連携し、図書館員や一般の方に向けた高齢者の行動の特性への理解や接し方の研修を実施する。 エ認知症予防や認知症サポーター講座など区役所や市民館などと連携して行っていく。そのためにはアクティブなシニアが図書館のサポーターになるなど、シニ ア自身の社会参加や自己実現を可能にするような手法も考える。 オ1つの館の先進事例のノウハウを各館でもシェアし、区の特性なども考慮しながら取り組む。 カ各館の事情に応じ、居場所、交流の場、展示の場なども作る。 キ録音資料の拡充や関係部局と連携した健康教室の開催など、高齢者に限らず、多くの方に役立つ事業も検討し、広く発信する。 ク高齢化社会に向けた対応を考えて行く上での基本的なスタンスとしては、障害者や高齢者といった枠組みではなく、あらゆる人にとって使いやすい「ユニバー サルデザイン」という視点で考えていくようにする。 5「7つの運営理念」及び「38の活動目標」のアップデート 2年間の検討結果を反映し、平成18・19年度に策定された「7つの運営理念」及び「38の活動目標」について、図書館専門部会では下記のようなアップデートを提案する。 (1)高齢化社会に対応した図書館サービス これまでの論議から、従前の「7つの運営理念」及び「38の活動目標」においては、多種多様な利用者に対応した図書館サービスの提供と充実、アウトリーチサービスといった項目の中の1つとして埋没していた感のある「高齢者サービス」を何らかの形で明示したいという意見が多く出された。 とはいえ、障害者サービスや児童サービスなど多様なサービスがある中で、高齢者サービスだけを抜き出して独立した項目とすると「7つの運営理念」及び「38の活動目標」の体系から浮いてしまう印象を与えてしまうことになりかねない。 そもそも「高齢者サービス」とは言いつつも、その受益者の健康状態、ニーズも多様であり、そのサービス内容を一括りに語ること自体あまり意味がないことであった。そこで、「高齢者サービス」という狭い要素に捕らわれることなく、市立図書館はいよいよ到来する超高齢社会にこれからどのように対応していくのかという観点から、もっと根源的かつ総括的な、「高齢化社会に対応した図書館サービス」という項目を「38の活動目標」の「2市民の仕事や生活に役立つ図書館」の中に1項目を追加することを提案する。 (2)用語の改訂 ・運営理念1「市民の生涯学習を支える図書館」の(2)及び「38の活動目標」の「6持続的で安定した効果的・効率的な運営をめざす図書館」の(3)にある「IT」は「ICT」という文言に改める。 ・「38の活動目標」の「1市民の生涯学習を支える図書館」項目にある「子ども・ヤングアダルトサービス」という用語について、10年くらい前までは子どもから大人への過渡期にある年代を「ヤングアダルト」と捉えて、市立図書館での案内も「ヤングアダルト」と表記していたが、川崎市立図書館では現在「ティーンズ」コーナーなどを使用しているのに合わせて「ティーンズ」という表記に改める。 ・同じく「38の活動目標」の「2市民の仕事や生活に役立つ図書館」の(2)にある「アウトリーチ」という言葉だけでは一般の方に分かりにくいので工夫する。 ・同じく「38の活動目標」の「6持続的で安定した効果的・効率的な運営をめざす図書館」の(4)に「図書リサイクル(読書循環)」という項目がある。川崎市の取組として当時は「図書リサイクル」という用語をよく使っていた。しかしリサイクルという言葉からは、古くなった本をもう一度再生して使用するといったイメージを連想するのではないかと思われる。図書館が除籍した本や市民からの寄贈本を捨てずに市民が気軽に手に取って読める場や機会を作ろう、本を再度利用して有効に使えるようにしようという趣旨であるので「リユース」に改める。 ・同じく「38の活動目標」の7(2)で「ジョブキャリア」として提言されている内容は現在では「キャリアパス」という用語で示されることが多いため、「キャリアパス」に改める。 ・同じく「38の活動目標」の5の(2)の「図書館協議会」は組織上、平成28年度から「社会教育委員会議図書館専門部会」に変更されており、文言を改める。 ・運営理念3(1)では「専門図書館」、活動目標3(1)では「専門的図書館」という表記が使用されているが、特に意図して使い分けている様子もないので、本来的な意味での専門図書館と区別するため、「専門的図書館」で統一する。 6おわりに 平成18・19年度川崎市立図書館協議会研究活動報告書『川崎市立図書館の運営理念と活動目標について』において、市立図書館の「7つの運営理念」及び「38の活動目標」が提案されてから10年が経過した。今任期においては、この10年の社会状況の変化を踏まえて、この「7つの運営理念」及び「38の活動目標」を見直すことから議論を始めた。 当時も社会の高齢化の問題は語られていたには違いないが、10年が経過した今日、高齢化社会の到来はより身近で、かつ切実な問題として、多くの市民が実感する状況となってきている。人口が今なお増加傾向にあり、なおかつ全政令指定都市の中で最も平均年齢の若い川崎市であるが、市の『将来人口推計』(注2)によれば2030年までは人口が増え続けるものの、少子高齢化社会がさらに進行し、平成32年度(2020年)には超高齢社会(一般的には65歳以上の人口比率が21%を超えた社会)が到来することが予想されている。 このような社会状況の中で、高齢者と図書館についての議論に多くの時間が割かれた。これからの10年を見据えると、単に高齢者への図書館サービスという個別のニーズに留まらず、図書館として高齢化社会にどのように対応していくのかを意識しながらより包括的に考えていくことの重要性が共通認識となってきた。 さらに、様々なハンディキャップや図書館からの距離、年齢層に捉われず、誰もが使いやすいという「ユニバーサルデザイン」的な視点をもって図書館の諸事業を整理・再構築することの必要性が論じられるとともに、関連する社会教育機関や諸部局と連携しながら、元気なシニアが今までの経験を活かす活躍の場を用意する取組などについても活発な論議が展開された。 これら高齢者に関する議論の外、10年間の社会状況の変化を踏まえて、全般にわたって用語の見直しやアップデートの作業も行った。 市立図書館においてはこれらの研究成果を真摯に受け止め、超高齢社会の中で図書館活動を積極的に進めていただき、それらの実践を通して市立図書館がより一層市民に愛される図書館となることを願っている。 注2:出典資料名『川崎市総合計画第2期実施計画の策定に向けた将来人口推計について』(2017年5月25日公表) 【参考資料1】 川崎市立図書館高齢者サービスの状況について(2017年6月時点) 本文10ページでの調査については、川崎市立図書館各館に対して下記の項目で調査を行った。 問1日常的な高齢者サービスの提供について(複数回答可) □大活字本の提供 □関連コーナーの設置() □高齢者を意識した医療や健康情報コーナー等の設置() □高さや見出し等、書架の工夫() □高齢者席の設置 □リーフレット等の作成() □老眼鏡や拡大読書器など読書補助器具() □設備のユニバーサル化() □その他() 問2前項のサービスのうち、今後実施したいと考えているまたは現在より充実させていく必要があると考えている高齢者サービスは何か。 問3高齢者への対応で、現状として各館が対応に苦慮している問題などがあるか。 問4高齢者を対象とした取組(複数回答可) □高齢者向け朗読会() □医療・健康講座() □認知症関連講座() □仲間づくり・居場所づくり() □高齢者施設・団体との連携() □高齢者相互や異世代間の交流の場や機会提供() □地域包括ケアとの連携() □図書館運営への参加・意見反映の取組() □その他() 問5前項の取組のうち、今後実施したいと考えている、または現在より充実させていく必要があると考えている取組は何か。 問6関係部局との連携について □ある□ない ※「ある」場合、どの部署や施設と行っているか。連携する際の課題や、具体的事例など。 問7上記以外に特徴ある事業や計画の予定などはあるか。 問8認知症サポーター研修の開催予定(様々なケースに基づいた具合的対応を中心に) □ある(年月ころ) □ない 問9川崎市では困難でも、高齢者サービスについて興味深い他都市の事例など 問10その他、高齢者サービスについて課題等(自由記入) 28 巻末資料(1) 平成28・29年度審議経過 年月日会議名会場主な内容 平成28年 6月29日 平成28年度 第1回専門部会 中原図書館 多目的室 1委嘱状伝達 2部会長・副部会長選任 3専門部会の職務説明 4川崎市立図書館の現状について 5今期専門部会の進め方について 平成28年 9月16日 第2回専門部会中原図書館 多目的室 1報告事項 2図書館専門部会の進め方について 平成28年 12月16日 第3回専門部会中原図書館 多目的室 1報告事項 2図書館専門部会の進め方について 平成29年 3月8日 第4回専門部会中原図書館 多目的室 1報告事項 2図書館専門部会の進め方について 平成29年 6月2日 平成29年度 第1回専門部会 中原図書館 多目的室 1報告事項 2図書館専門部会の進め方について 平成29年 9月27日 第2回専門部会中原図書館 多目的室 1報告事項 2図書館専門部会の進め方について 平成29年 12月8日 第3回専門部会中原図書館 多目的室 1報告事項 2平成28・29年度の研究報告書の まとめについて 平成30年 2月21日 第4回専門部会中原図書館 多目的室 1報告事項 2平成28・29年度の研究報告書の まとめについて 3活動の総括 29 巻末資料(2) 平成28・29年度川崎市社会教育委員会議図書館専門部会委員名簿 氏名役職名備考 山田和秀川崎市立稲田小学校長 田中真理子川崎市立宮崎中学校長 吉田美幸 川崎市PTA連絡協議会副会長 野川中学校PTA副会長※※平成29年6月〜 福嶋加代美川崎市総合文化団体連絡会理事長 コ丸芙佐子市民委員 渡部康夫市民委員 吉田武○川崎郷土研究会長 青柳英治明治大学文学部教授 山本宏義◎ 日本図書館協会副理事長 日本図書館協会前副理事長※※平成29年6月〜 渡邊由紀江 柿生小学校/麻生図書館読み聞か せボランティア ◎部会長○副部会長 [任期]平成28年6月1日〜平成30年4月30日 30 平成28・29年度 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会研究活動報告書 ―高齢化社会に向けた対応等について− 平成30年(2018年)3月31日 編集川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 発行川崎市立図書館(中原図書館) 電話044−722−4932