令和2・3年度 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 研究活動報告書 『新しい生活様式における図書館活動』 〜新型コロナ対策、情報発信を中心に〜 令和4年(2022年)3月 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 令和4年3月31日 川崎市社会教育委員 様 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 部会長 青 柳 英 治 副部会長 吉 田 武 令和2・3年度 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会研究活動報告について 標記図書館専門部会は、川崎市立図書館の円滑な運営を図るために令和2年 5月1日に社会教育委員会議の専門部会として設置され、概ね2年間の任期中 に川崎市立図書館のあり方について専門的な見地から研究協議を重ね、次のと おり研究の成果をまとめましたので報告します。 今期の図書館専門部会では、令和2年初頭から広がり始めた新型コロナウイ ルス感染症の図書館への影響やそれに伴う図書館活動の課題について調査、研 究、協議を重ねました。特に、令和3年2月の第4回会議は、政府による2度目 の緊急事態宣言を受け、はじめて書面会議といたしました。この2年間は新型コ ロナウイルス感染症が様々な場面で、社会全般に影響を及ぼした期間であった といえます。 このような状況におきまして、これからの図書館に求められる活動や取り組 みには、今までとは異なる新たな視点が必要であると考え、本研究活動報告書に まとめました。 今後の社会教育行政及び図書館運営に本報告書が活かされることを期待いた します。 委員構成(五十音順) 青柳 英治(部会長)、 秋元 英輔、 菅原 敬子、 千 錫烈、 日吉 のぞみ、 平木 薫、 元木 亮二、 吉田 武(副部会長)、 渡部 康夫、 渡邊 由紀江 目次 1 はじめに ----------------------------------------------------------------------------------1 2 川崎市立図書館における新型コロナウイルス感染症への取り組み -------------------------2 (1)経過と取り組み ----------------------------------------------------------------------2 (2)緊急事態宣言発出に伴う臨時休館中の作業・取り組み --------------------3 (3)開館後の新型コロナウイルス感染症関連の取り組み --------------------4 3 今期の研究の経過と議論 -------------------------------------------------------------6 (1)「新型コロナ、災害時等における図書館」について -------------------------6 (2)「図書館の情報発信、アピールの必要性」について -------------------------9 4 新しい生活様式における図書館活動 -------------------------------------------10 5 おわりに --------------------------------------------------------------------------------13 【参考資料】 図書館における新しい生活様式に対応したサービスの実際 ----------------14 【巻末資料】 (1)令和2・3年度審議経過 -------------------------------------------------------22 (2)令和2・3年度川崎市社会教育委員会議図書館専門部会委員名簿 ----------------------23 1 はじめに 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会(以下「図書館専門部会」という)は、 前身である川崎市立図書館協議会を引継ぎ、平成28年度から川崎市社会教育 委員会議の専門部会として設置され、本図書館専門部会は第3期となる。 第1期では、「高齢者サービス」、第2期では「児童サービス」をキーワードに 各委員の体験や専門的見地も踏まえ研究、協議を行ってきたが、今期においては、 「新型コロナウイルス」の感染拡大に伴い、今までの来館型サービスに留まらな い新たな図書館サービスの考え方や、緊急事態宣言等の非常時における図書館 の役割などについて、その課題を明確にすることとした。 川崎市では、第1期の図書館専門部会でも検討され、提言された「川崎市立図 書館の運営理念と活動目標」などを基本としつつ、令和3年3月に「行きたくな る図書館」、「まちに飛び出す図書館」、「地域の“チカラ”を育む図書館」を基本 方針とした『今後の市民館・図書館のあり方』を策定したところであるが、図書 館専門部会では、これらに加え、今日的課題であるコロナ禍においては、さらに どのような取り組みが図書館に期待されるのかを検討、協議していく必要があ ると考えた。これからも新たな疫病のまん延や自然災害などを考慮すると、市民 生活は従来通りではない「新しい生活様式」が恒常化していくと推察される。 図書館がこのような状況下で『あり方』をいかに実現していくのか、今までの 活動を踏まえつつも、非来館型のサービスや新たな図書館活動の周知、広報をど のように行っていくかなど、新しい視点を加えながら次のように、今後の新たな 生活様式も踏まえて、図書館活動はいかにあるべきかを研究の中心テーマとし た。 令和2・3年度川崎市社会教育委員会議図書館専門部会研究テーマ 『新しい生活様式における図書館活動』 〜新型コロナ対策、情報発信を中心に〜 具体的には、「新型コロナ、災害時等における図書館」については、本市の 状況のほか、他都市での事例等も検討し、さらに「図書館の情報発信、アピー ルの必要性」では、効果的な周知やアピールの方法等についても研究し、議論 を進めた。 (写真1)除菌ボックス 2 川崎市立図書館における新型コロナウイルス感染症への取り組み (1)経過と取り組み 令和2年1月から国内で広がり始めた新型コロナウイルスについては各自治体 が地域の感染状況に応じて図書館イベントの中止や臨時休館、職員の在宅勤務等 を行っていたが、川崎市立図書館においては次のような対策・対応を実施してい た。 【令和2年】 ◎国・県 ●川崎市 ○その他 2月27日(木)〜 新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から各種図書館イベントの 延期または中止の方針決定 2月29日(土) 3月2日以降の図書館利用一部制限の発表 3月 2日(月)〜 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、貸出、返却など短時間の図書館 利用や、閲覧席及び新聞・雑誌の最新号利用停止、イベント、おはなし会 の休止等、感染拡大防止への対策開始 臨時休館等はせずに、書棚からの資料貸出は継続 4月 7日(火) ◎緊急事態宣言の発出(1回目) 4月 9日(木) ●「緊急事態宣言下における本市行政運営方針について」公表 4月11日(土)〜 緊急事態宣言発出に伴い臨時休館 (返却ポスト、返却ボックスは利用可、HPからの予約は停止) 5月14日(木) ○日本図書館協会による「図書館における新型コロナウイルス感染拡大 予防ガイドライン」の策定公表 5月25日(月) ◎緊急事態宣言の解除 5月27日(水)〜 休館中に用意できた予約資料の貸出と返却の一部サービスが再開(開館 時間は全館17 時まで) 6月 1日(月)〜 全館通常の開館時間に戻り、予約の受付や新規利用登録が再開 (開架スペースへの立ち入り禁止など館内利用の制限は継続) 6月10日(水)〜 書棚からの資料の貸出が再開 7月 1日(水)〜 新聞・雑誌の利用、閲覧席の再開 (閲覧席数は3密防止の対策として、 仕切り等により半減) 8月末までに 感染症対策として除菌ボックス(写真1)を 全館に設置 【令和3年】 1月 7日(木) ◎緊急事態宣言の発出(2回目) 1月 8日(金) ●「緊急事態宣言下における本市行政運営方針について」公表 1月12日(火)〜 2度目の緊急事態宣言発出に伴い、中原図書館の平日の閉館時間が 21 時から20 時に繰り上げ(他館は通常の閉館時間) 3月21日(日) ◎緊急事態宣言の解除 3月22日(月)〜 緊急事態宣言解除に伴い、中原図書館の平日の閉館時間が通常通り (21 時)に(閲覧席数の半減は全館継続) 4月 1日(木)〜 予約資料の有料宅配サービスの開始 4月16日(金)〜 ◎まん延防止等重点措置の指定 4月19日(月) ●「まん延防止等重点措置に伴う本市行政運営方針について」公表 4月20日(火)〜 まん延防止等重点措置の適用に伴い、中原図書館の平日の閉館時間が 繰り上げ(21 時から20 時)に 7月30日(金)〜 ◎緊急事態宣言の発出(3回目) ●「緊急事態宣言下における本市行政運営方針について」公表 8月 2日(月)〜 3度目の緊急事態宣言発出により、中原図書館の平日閉館時間の繰り 上げ継続 9月 1日(水)〜 感染予防を兼ねて開館時間中も返却ポスト等の利用を可能に 9月30日(木) ◎緊急事態宣言の解除 10月1日(金)〜 緊急事態宣言解除に伴い、中原図書館の平日閉館時間が通常通り (21 時)に 【令和4年】 1月19日(水) ◎まん延防止等重点措置の指定 1月20日(木) ●「まん延防止等重点措置に伴う本市行政運営方針について」公表 1月21日(金)〜 感染防止対策の徹底を周知し、現状どおり運営 (令和4年2月1日現在) (2)緊急事態宣言発出に伴う臨時休館中の作業・取り組み (令和2年4月11 日〜5月26 日) 緊急事態宣言の期間中、図書館の職員は、通常に勤務するほか、在宅勤務も実 施しながら、各館において開館に向けて次のような作業や対応をしていた。 【全館の取り組み】 ・カウンター、閲覧席等への飛沫防止対策物(フィルム等)の作成・設置 ・ソーシャルディスタンスを意識した館内動線の案内やベンチ、椅子の配置 ・啓発ポスター等掲示物、配置図・館内サインの貼り替え、見直し (館内装飾品・季節の飾り物等の作成含む) ・読書啓発物(しおり等)の見直し、作成 ・書棚の清掃、開架資料及び書庫資料の整理(修理や除籍含む) ・一部資料の請求ラベル張替え ・未処理寄贈資料の受入れ、リユース資料配布準備作業 など 【各館ごとの取り組み】 ・館内特別整理期間(蔵書点検)を実施【中原図書館・多摩図書館】 ・テーブル・椅子等の修繕・清掃 【川崎図書館・幸図書館・高津図書館・ 宮前図書館・麻生図書館】 ・郷土行政資料、地図資料の整理 【幸図書館・中原図書館】 など (3)開館後の新型コロナウイルス感染症関連の取り組み (令和2年5月27 日〜現在) 【全館の取り組み】 ・マスク着用、手洗いの徹底等の周知、手指消毒液等の設置 (ポスター掲示及び声掛け等) ・閲覧席、ベンチのソーシャルディスタンス(写真2) (座席数を半減程度にして間隔を確保) ・閲覧席への飛沫防止パネルの設置(各館順次) ・全館への除菌ボックスの設置 ・アルコール等による施設内の定期的な消毒・清掃 ・換気設備や出入口・窓の開放等による換気の徹底 ・カウンター前に並び順の案内表示を設置(写真3) ・開館時の返却ポストの開放 ・図書館キャラクターのぬり絵の配布 (写真2) ベンチのソーシャルディスタンスの表示 (写真3)カウンターの列・足元表示 ・おはなし会の休止 (参加者数の制限などにより順次再開) ・おはなしボランティアによるおすすめ本などの展示企画(写真4) ・予約資料の有料宅配サービス(令和3年4月〜) 登録者280人、延べ貸出冊数415冊(令和4年1月31日現在) 【各館ごとの取り組み】 ・おはなしの部屋、市民情報コーナー、対面朗読室、携帯電話室等の利用制限、 時間管理席の利用時間短縮 (1回2時間→1時間) 【中原図書館】 ・親子用のおはなしの部屋の使用制限 【高津図書館】 ・自動車文庫は入口と出口を分け、入口に消毒液を設置し、車内へは 1グループずつ入るように制限 【宮前図書館】 など 以上のように市立図書館においては、現在まで、新型コロナウイルス感染拡大 防止に向けて様々な取り組みを行っており一定の評価はできるが、今回のよう な緊急時に図書館として市民にどのようなサービス、取り組みができたのか、ま たは行っていくべきだったのかは、検証すべき課題であると考える。 他自治体と比べても川崎市においては、図書館の臨時休館は最小限であった ものの、休館時における非来館型サービスの実現、その後のインターネットを活 用した図書館サービスのあり方、またそれらの周知方法等については、より積極 的な対応、対策が必要であったと思われる。 次に、新しい生活様式におけるこれからの図書館活動のあり方として、以上の 状況を踏まえつつ、「新型コロナ、災害時等における図書館」、「図書館の情報発 信、アピールの必要性」について、研究の経過や意見をまとめる。 (写真4)展示の例 3 今期の研究の経過と議論 (1)「新型コロナ、災害時等における図書館」について 研究の論点として、「新型コロナ感染症拡大に伴う取り組み」、「学校図書館の 現状」、「臨時休館等における図書館活動」の3点について、検討を行った。 ア「新型コロナ感染症拡大に伴う取り組み」について【主な意見、課題等】 (a)館内対策の充実 ・除菌ボックス等の設置が望まれる。 →【令和2 年度中に全館へ設置】 ・感染対策としても自動貸出機の増設や分館への設置が必要である。 ・日常的な飛沫防止、清掃等の拡充によって安心して図書館を利用できるよう にする。また行っている感染対策を利用者に伝えることも必要。 ・利用者の手洗い、消毒の徹底、マスクの着用等を周知、声掛けを実施する。 (b)イベント等の工夫 ・対面実施が難しい「おはなし会」等のオンライン開催等を検討する。 ・「おはなし会」開催時は、検温や飛沫防止の取り組みのほか換気ができ、広 い会場で行う等、参加者だけでなく、ボランティアも安心できる環境にする。 ・「本の福袋」など、図書館の滞在時間を減らす本の貸出方法も工夫できる。 ・「おすすめ本の紹介」等、「おはなし会」に代わるボランティアの活動を図書 館でも考えてほしい。(機会や場所の提供など) (c)非来館型サービスの充実 ・図書館に行かなくても本が借りられる、宅配サービス等を行ってほしい。 →【令和3 年度4 月から試行実施】 ・紙の本だけではなく、コロナ禍でも読めるように電子書籍の導入が望まれる。 ・図書館以外でも貸出、返却ができるようにならないか。(自動車文庫等の活用) ・休館期間中でも新聞、雑誌が読める環境や提供方法等、新たな資料閲覧の手 法も検討する必要があるのではないか。 (d)その他 ・利用制限、臨時休館等の総括、検証(周知方法、期間、改善点、市民意見等) ・図書館従事者の感染時の対応 イ「学校図書館の現状」について【主な意見、課題等】 (a)学校図書館の開館状況 ・各校により開館状況に違いがある。 ・学校図書館の開館や休館の理由等が知りたい。 ・再開の時期や考え方 ・コロナ禍における学校図書館の取り組み ・学校司書配置との関係性 (b)学校図書館の取り組み ・図書館ボランティアの工夫(読み聞かせ、スタンプラリー、総選挙など) ・学校における図書館資料の貸出の重要性 ・コロナ禍におけるボランティアの受入等について。 (c)学校図書館資料の利用状況 ・開館と貸出不可の課題 ・各教室への配本(ブックトラック等の活用) ・今後のICT 活用も含め、かわさきGIGA スクール構想(※)における学校 図書館の活用方法 ※用語説明 「かわさきGIGAスクール構想」 国の「GIGA スクール構想」(全国の児童・生徒1 人に1 台のコンピューターと高速ネット ワークを整備する取り組み)に基づき、1 人1 台端末の調達や学校内の高速ネットワーク環 境の整備を進め、こうしたICT の活用を通して、かわさき教育プランの基本理念である「夢 や希望を抱いて生きがいのある人生を送るための礎を築く」学びを推進する構想。 「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All(全ての児童・生徒のための世界 につながる革新的な扉)」のこと。 ウ「臨時休館等における図書館活動」について【主な意見、課題等】 (a)非来館型サービス ・他都市の取り組みも参考に、HP、ツイッターなどインターネット活用の検 討は必要である。 ・電子書籍の導入やその充実の検討が必要である。 ・デジタルアーカイブの拡充 ・有料宅配貸出サービスの実施 ・図書館以外でも貸出できる機会や方法が望まれる。 ・自動車文庫の活用(介護施設や病院等への貸出サービス) ・自動車文庫ポイントの増設及び回数の拡充(自動車文庫増設の検討も) (b)イベント実施と広報 ・休館期間における市民への周知方法の拡充 ・コロナ禍における、おはなし会や図書館イベント実施への工夫 ・おはなし会に代わる読書紹介の取り組み(コーナー設置、リスト配布、読書相談等) ・災害時の情報発信(図書館から何が発信できるか) ・図書館以外でのおはなし会活動等の実施 ・登録メールアドレスを活用した情報周知の可能性(一斉メールなど) (c)図書館ができること、行うこと ・在宅時の読書需要の高まりへの対応 ・市民意見、市民ニーズの実現に向けた取り組み ・災害時の図書館サービス、災害時の情報発信の重要性(関連施設との連携等) ・災害の記録や関連資料の収集、提供 ・必要なレファレンスサービスの拡充 ・避難場所以外としての図書館(開館していることでの安心感) ・身近な地域に立脚した過去の事例や取り組み等の紹介 例:川崎区塩浜の神明神社:コレラ流行時の扁額奉納、水資源、防災・減災対策の歴 史としての「二ケ領用水久地円筒分水」等、地域の歴史紹介や説明、関連特集の実施 ・地域の災害記録等の収集と保存及びデジタル化(閉館中でも閲覧を可能にする) ・災害等関連資料や関連文学作品等の紹介(パスファインダー等の作成) (d)その他 ・災害ごとの危機管理のマニュアル、ガイドラインの必要性 ・利用者向け避難訓練の実施 ・感染防止対策の取り組みを館内掲示 ・アルコール消毒液等のより適切な使用方法(足ふみ式、自動噴霧等) ・学校図書館有効活用事業の拡充 (2)「図書館の情報発信、アピールの必要性」について コロナ禍や自然災害等の危機管理としての取り組みだけではなく、平常時に おいても図書館からの情報発信や活動のアピールは不足しているように思われ る。今期中には臨時休館があり、その際の情報発信のあり方の検証も必要だが、 これからの図書館活動として、さらに図書館に関心を持ってもらえるような「情 報発信」や「アピール」の方法を工夫することは重要な課題である。 ア 図書館からの情報発信の可能性について【主な意見、課題等】 ・図書館利用について児童、生徒に知ってもらうことは重要である。 ・小中学生用タブレットへの図書館情報の配信(おすすめ本など) ・「読書のまち・かわさき」事業として、タブレットを活用できれば図書館と 市内の書店が連携して子どもたちに読書の楽しさなどを伝えることもでき る。 ・各種パスファインダー(※)を図書館ホームページに掲載することも 情報発信の一つである。 ・インターネットやZOOMを利用した情報発信については、著作権(送信権) 等の確認が必要となり、今後も活用するには解決すべき課題である。 ※用語説明「パスファインダー」 あるテーマについて調べるときに役立つ“道しるべ”となる基本的な図書資料、情報源、 その探し方などを紹介したもの。 図書館では、「多摩川を調べよう」、「環境問題について考えよう」など10 種類が作成さ れ、ホームページに掲載されている イ 図書館からのアピールの有効活用について【主な意見、課題等】 ・インターネット等の普及により、いままでチラシの配布やポスター掲示に 頼っていた周知の方法も変化してきているので、より図書館ホームページ の有効な活用方法(見たくなるホームページの工夫等)を続けていく必要 がある。 ・図書館を利用しない、できない市民に対してアピールが少ない。 ・市民はパスファインダーの存在や使い方を知らない。 ・図書館がどのように本を選定して、市民が利用できるようになっているの か、またどのように収集保存しているのかなどについて、市民に周知し、理 解してもらうことは、図書館からの情報発信、アピールとしても必要である。 ・市民の様々な課題の解決に役立つレファレンスサービスを図書館は実施し ているが、どのようなことができるのか、してもらえるのかなどをPRすれ ば、より図書館利用につなげることができる。 ・各図書館の混雑状況などが把握できれば、図書館利用時間を分散するなど 安心して図書館利用が可能になる。ホームページ等に掲載できないか。 ・災害記録やハザードマップ等を電子化し図書館から発信することが、緊急時 における図書館利用のあり方やアピールにもつながる。 4 新しい生活様式における図書館活動 これまでの図書館サービスや運営は、来館した利用者を中心に検討されてき た。そのため、長期の休館や非来館型サービスへの対応は積極的に実施されてこ なかったように思われる。 今後、新しい生活様式への対応として、図書館においては、非来館を含めた 人々の関わりの変化、紙資料にとどまらない情報獲得手段の多様化などにどの ように対処していくかが課題である。 今期の図書館専門部会では、図書館の危機管理を含めたコロナ禍の対応、また 情報発信などの非来館型サービスの必要性について、協議を行ってきたが、別添 の参考資料により、全国的な図書館の取り組みの事例等についての報告もあっ た。今後の状況に合わせ、川崎市の図書館でも活用が期待できる。 以下に、参考資料「図書館における新しい生活様式に対応したサービスの実際」 をもとに、特に今期のテーマに関わる部分を紹介、整理する。 【図書館サービスの実際の事例】 全国の図書館でどのようなサービス提供がなされたのか @ 新型コロナウイルス感染症についての情報提供 ・主に国、地方自治体のウェブサイト、関連資料を対象に、図書館ホーム ページや図書館だより等による情報提供 A 休館期間中の資料の貸出 ・特別貸出窓口を設けて事前予約の資料の貸出 ・予約資料受取コーナーの設置による貸出対応(ドライブスルー方式もあり) ・予約資料の有料宅配貸出サービスの実施 B 子ども向け資料のセット貸出(本の福袋等)、子どもに対する特別貸出 ・子ども向けの図書3冊をワンセットにして、表紙が見えないように英 字新聞で包んで貸し出す(短時間で利用者に複数の資料を選ぶことがで き、感染防止にもなる)。 ・未就学児や小中学生に対し電話で受付をして、職員が各家庭のポスト に届けるサービス C 図書の自動返却機や消毒器の設置 ・除菌ボックスは、川崎市立図書館も設置済み。 D 新規移動図書館車の導入 ・通常の移動図書館車以外に野外で本を選べるブックトラックの積み下 ろしができる車を導入したケースもある。 E 紙芝居、昔話の実演動画をインターネットで配信 ・オリジナルで作った紙芝居の実演動画をインターネットで配信 ・図書館ボランティアが市内の昔話を読み聞かせる動画を市の公式 YouTube チャンネルで公開 F 電子書籍の導入 ・子どもを対象とした「電子図書館」の開設 ・実用書、エッセー、ライトノベル等を導入する図書館 G オーディオブックの導入 ・朗読を電子端末で聞けるようにする。 H 図書館職員おすすめ本の配信(積極的なSNSの活用) ・毎日、図書館職員が選んだ本を、ツイッターやインスタグラムなどに 紹介 【オーストラリアの研究者が提示した コロナ禍における公共図書館が取るべき対応のあり方】 新型コロナ等の感染拡大:危機の3つの局面(A・B・C) 局面A 「危機が起こる前」 局面B 「危機の最中」 局面C 「危機の後」 取るべき対応の3区分(@・A・B) @「消極的対応」:人々が必要とするときに十分なサービスを提供できない 局面A 他機関等との協力体制がない 局面B コミュニティ間の交流を最小限に抑える (ウイルスの拡散を止めるために図書館を閉館する等) 局面C これまでどおりの運営 (蔓延を防ぐためのサービス提供や他の機関との協力を行わない) A「積極的対応」:感染拡大時の利用者の要望・ニーズを察知して、信頼性 の高い最新情報を提供する 局面A 危機に備えて対策チームを組織しておく 局面B 一部の業務は停止するがオンラインサービスの提供等を 実施する 局面C 実践した活動の振り返り、今後につなげる B「先進的な取り組み」:独自のアイデアに基づいて新たな変化を生み出す ABCいずれの局面においても、主体的に取り組み、変化に対して 後手にならず独創性に基づく活動を継続する 今回のコロナ禍において、日本の公共図書館の取り組みを見ると、この3つの 取るべき対応の中では「積極的対応」に分類できると思われるが、今後は、「先 進的な取り組み」に向けた検討がますます必要になり、求められていくことにな るだろう。川崎市においても、この期間の検証を行い、次につなげていくことが 大切であると考える。 5 おわりに 現在も終息していない新型コロナウイルス感染症は私たちの生活に大きく影 を落としているが、反面、実現が難しいと思われていた新たな生活様式を実際に 取り入れる契機となったことは確かである。 全国の公共図書館においても従来の来館中心のサービスから非来館による利 用のあり方を考える大きなきっかけとなったのではないだろうか。 今後、感染症だけでなく、休館を伴う自然災害など、図書館における危機管理 の対応はさらに喫緊の課題になってくるはずである。また、新しい生活様式が社 会に定着していく中で、図書館サービスのさらなる変化も求められることにな る。 川崎市では既に、除菌ボックスの設置や有料宅配サービスの取り組みなど、コ ロナ禍を通じて新たに実施したサービスもあるが、参考資料に示されたような 全国で実施されているサービスについては、川崎市においても可能な方法で実 現に向けて取り組んでほしい。 特に、非来館型サービスの充実は今後より求められる。ICTの普及、活用に よる電子書籍の利用などは新しい生活様式の定着と合わせ一般的な図書館利用 の形態となってくるはずである。また、小中学校での“かわさきGIGAスクー ル構想”の実施に伴い、子どもたちのICT環境も劇的に変化している。公共図 書館として、どのような状況下でも利用者の声を聞きながら、市民、子どもたち に資料や情報を届ける機会を失わないように検討、準備しておくことが大切で ある。 令和2、3年度川崎市社会教育委員会議図書館専門部会としては、これらの状 況を踏まえ、図書館活動を充実させ、市民や子どもたちが安心して利用できる環 境づくり、情報発信やアピールの必要性について各委員の専門的な立場からの 視点で議論し研究を進めた。 コロナ対策は図書館だけが行うものではないが、図書館でしかできないサー ビスや対応は多いと思われる。これからも市民の理解のもと、学校や関係機関と の連携により必要な対応を取りながら柔軟かつ積極的に様々な変化に取り組ん でほしい。 本報告が、これからの図書館活動の一助として、図書館利用の向上につながる ことを希望する。 令和2・3年度審議経過 巻末資料(1) 年月日 会議名 会場 主な内容 令和2年 7月15日 令和2年度 第1回専門部会 中原図書館 多目的室 ・委嘱状伝達 ・部会長・副部会長選任 ・専門部会の職務説明 ・川崎市立図書館の現状について ・「今後の市民館・図書館のあり方」について ・新しい宮前市民館・図書館基本計画(案)に ついて ・今期専門部会の進め方について 令和2年 9月16日 第2回専門部会 中原図書館 多目的室 ・図書館のあり方に関する懇談会について ・宮前市民館・図書館のパブリックコメントに ついて ・図書館専門部会のテーマについて 令和2年 12月8日 第3回専門部会 中原図書館 多目的室 ・「今後の市民館・図書館のあり方」について ・新しい宮前市民館・図書館を考えるワークシ ョップについて ・図書館専門部会のテーマについて 令和3年 3月 5日 第4回専門部会 書面会議 にて開催 ・「新しい生活様式における図書館活動」に ついて 令和3年 6月16日 令和3年度 第1回専門部会 中原図書館 多目的室 ・「今後の市民館・図書館のあり方」について ・「新型コロナ、災害時等における図書館」に ついて 令和3年 9月15日 第2回専門部会 中原図書館 多目的室 ・あたらしい宮前市民館・図書館を考える ワークショップについて ・事業・サービスの検討に関するサウンディン グ型市場調査の実施結果まとめ ・「図書館の情報発信、アピールの必要性」に ついて 令和3年 12月14日 第3回専門部会 中原図書館 多目的室 ・図書館システムについて ・稲田町会連合会からの寄贈について ・図書館専門部会研究活動報告書について 令和4年 2月 1日 第4回専門部会 中原図書館 多目的室 ・「市民館・図書館の管理・運営の考え方 中間取りまとめ」について ・令和2・3年度の研究活動報告書について ・活動の総括 巻末資料(2) 令和2・3年度川崎市社会教育委員会議図書館専門部会委員名簿 (五十音順) 氏 名 役職名 青柳 英治◎ 明治大学 文学部教授 秋元 英輔 市民委員 菅原 敬子 川崎市総合文化団体連合会 理事、 麻生区文化協会 会長 千 錫烈 関東学院大学 社会学部 現代社会学科教授 日吉 のぞみ 川崎市PTA連絡協議会副会長 平木 薫 川崎市立宮前平小学校長 元木 亮二 川崎市立田島中学校長 吉田 武 ○ 川崎郷土研究会会長 渡部 康夫 市民委員 渡邊 由紀江 柿生小学校、麻生図書館読み聞かせボランティア ◎部会長 ○副部会長 [ 任 期 ]令和2年5月1日〜令和4年4月30日 令和2年度・3年度 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会研究活動報告書 『新しい生活様式における図書館活動』 〜新型コロナ対策、情報発信を中心に〜 令和4年(2022年)3月31日 編集 川崎市社会教育委員会議図書館専門部会 発行 川崎市立図書館(中原図書館) 電話 044−722−4932